大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和60年(オ)1454号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告人の上告理由について

被上告人の本訴請求は、被上告人の夫であつた訴外唯岡誠儀が訴外地銀生保住宅ローン株式会社から昭和五五年三月五日五〇万円を借り入れるについて、被上告人及び上告人は誠儀の右借入金債務を連帯保証したが、その後誠儀がその支払を怠つたため、被上告人は右訴外会社に対し昭和五七年一二月八日右借入金元利合計四九五万六五五七円を代位弁済したから、上告人に対し右代位弁済金の二分の一に相当する二四七万八二七八円及び右代位弁済の翌日から支払ずみまで年五分の割合による法定利息の支払を求める、というものであるところ、記録によれば、上告人は、第一審における口頭弁論期日においては、なんら抗弁を主張しなかつたが、第一審判決の事実摘示には、上告人の主張として、「上告人が誠儀の依頼で本件連帯保証契約を締結するに当たり誠儀の妻である被上告人は上告人に求償権を行使しない旨を約束した」との主張があつた旨記載され、かつ、原審の第一回口頭弁論期日において、当事者双方は、第一審の口頭弁論の結果を陳述するに際し「第一審判決事実摘示のとおり陳述する」旨弁論したことが明らかである。ところで、第一審で主張されなかつた事実であつても、第一審判決事実摘示に右の事実が主張された旨記載され、控訴審での口頭弁論期日において第一審の口頭弁論の結果を陳述するに際し「第一審判決事実摘示のとおり陳述する」旨弁論したときは、右の事実は控訴審の口頭弁論で陳述されたことになるものと解すべきである(最高裁昭和三九年(オ)第六五一号同四一年一一月一〇日第一小法廷判決・裁判集民事第八五号四三頁参照)から、原審は、上告人の前記主張につき判断すべきであつたものといわなければならない。しかるに、原審は、被上告人の本訴請求を認容するに当たり、上告人の右主張につきなんら判断していないことが明らかであつて、原判決には判断遺脱の違法があるものといわざるをえず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れないから、更に審理を尽くさせるため本件を東京高等裁判所に差し戻すことにする。

よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤哲郎 裁判官 谷口正孝 裁判官 角田禮次郎 裁判官 高島益郎 裁判官 大内恒夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例